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2話 再会は意外に早く

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-07-06 08:40:59

「どうしたんだい? 顔が赤いけど……」

「あ、いやその……何でもないです!! とにかくありがとうございました!!」

わたしは深く頭を下げてから逃げるようにその場から駆け足で立ち去り事務所に戻る。

「おかえり〜どうしたんだそんな息切らして?」

事務所では師匠が紅茶を飲んで依頼の資料などを整理していた。こちらまで良い香りが伝わってくる。

「な、なんでもない! とにかくお昼ご飯作るね!」

「お、おう……」

今日のご飯担当はわたしなので、火照った顔を冷やすようにこっちに集中するのだった。

「んぅ〜やっぱシュリンが作るパスタは最高だな!」

わたしが作った料理はトマトソースのパスタ。トマトの酸味と旨味がパスタに絡んでおり、具のキノコも香りを引き立てることに貢献しており二感覚で料理を楽しめる。

「あ、そうだシュリン。これからは夕方以降も外を出歩かないようにな」

「あー最近何かと物騒ですもんね」

「まーそうだが……そうだな。今や実の娘当然のお前に危険な目には遭ってほしくないからな」

師匠はお人好しな人で、拾ったわたしの面倒も見てくれたし今や親同然の人だ。

「なぁシュリン。最近お前眠れないだとか疲れが取れないみたいな悩みあるか?」

「え? 別にないけど……もしかして今わたしそんな顔色悪い?」

突然探るようにこちらの顔色を窺ってくるので、つい不安になりペタペタと自分の顔を触る。

特段熱かったり隈があるといったわけではないし、気分的にも良好だ。

「そういうわけじゃないんだが……いや、問題ないなら良いんだ。今日は仕事を頼むかもしれないしな」

「誰か依頼人が来るの?」

「あぁ。多分今までで一番大物かもな」

「へぇ……大物かぁ……」

どんな人だろうかと想像を膨らませる。白馬に乗った王子様……は言い過ぎだとしても、きっと気品のある殿方なのだろう。

そんなことを考えていると、ふと先程助けてくれたあの人の顔が脳裏を過ぎってしまう。

(はぁ……名前くらい聞いておくんだった……)

きっとわたしは二度とあの人とは会えないのだろう。ここら辺では見ない顔だったし、何らかの用事で来た可能性が高い。数日後にはもう違う街へ行っていると考えるのが自然だ。

食事も終えそのお客さんに備えて掃除などして準備しておく。

「おっ、来たな」

お昼を食べて小一時間程経った頃、ここの扉が叩かれる。

「わたしが出ますね。はいどうぞこちら……に……」

扉を開き眼前に出てきた顔に絶句してしまう。それが先程助けてくれたあの男性、わたしの初恋となった人だったのだから。

「あ、君は……」

「なんだシュリン? まさかそいつと知り合いだったのか?」

「いや知り合いっていうか……あの……その……」

こんな胸がときめく感覚は初めてで、上手く言葉を発せられない。

「彼女とは先程偶然道で出会って。暴漢に襲われそうになっていたので助けたまでです」

「そんなことがあったのか……? 全く気をつけろよシュリン? 最近本当に物騒なんだから……ま、とにかくありがとうな……ロンド」

一旦話を区切り、師匠は彼を応接間に通しわたしも一緒に話を聞くことになる。

(ロンドって言うんだ……お名前……)

彼はわたしと師匠の向かい側に座り、嫌でも彼の顔が視界に入る。

フードをつけていないことでよりはっきりと分かる端正な顔立ち。陽光を反射する金色の髪が揺れ、わたしは変に意識してしまう。

「それで依頼なのですが……最近噂の辻斬りについて調べていただきたく……」

一方ロンドさんはこちらのことなど気にも留めず早速用事に取り掛かる。

「辻斬り……か」

「流石に噂程度じゃ調べるのは無理でしょうか? あなたはかなりの凄腕だと聞いて来てみたのですが……」

「いやそうなんだが……いや、分かった。調べてみよう。だが……そうだな。おいシュリン。今日一緒に仕事手伝ってもらう予定だったが、あれキャンセルだ」

師匠は珍しく少し悩むような表情の後、わたしに一枚の紙を渡してくる。そこには人の名前や住所、そして依頼内容が書かれていた。

「人探し……ですか?」

「そうだ。それと……ロンドはこれからどうする予定だ?」

「とりあえず家の用事は済ましているので、しばらくは辻斬りの捜査を手伝うことはできますが……」

「家の用事?」

「あぁそうかシュリンはまだ知らなかったな……おい今家紋か何か持ってるか?」

「あぁそれなら……」

ロンドさんは服のポケットからハンコを取り出す。師匠が差し出したいらない紙に押しその印を見せてくれる。

「そ、それって……」

「お、流石にシュリンでも知ってたか。そうだ。彼はこの街の領主であるテオス家の次男、ロンド・テオスだ」

「え……えぇ!!??」

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     何度もその髪を触り、色や長さを確かめる。だが確かめる度にこれはシュリンさんのものだも脳に突きつけられる。(シュリンさんはこの部屋に……いや入っていないはず。昨日ここに来た時は常に一緒に行動してたし、この部屋には立ち寄らなかった……)「そんな真剣な顔して何か見つけたんですか?」「あっ、いや……一つ質問が。ここの従者や警備の人に、金色の長髪の人は居ますか?」「少々お待ちを……」 衛兵は廊下に居たメイドに話しかけ、その人が他の従者や警備の人達に聞いていく。「すみません確認取れました。とりあえずそのような人物は居ないそうです」 十分後。悪い方の予想が的中してしまう。やはりこの髪はシュリンさんのもので間違いなく、同時に彼女がこの部屋に来たことを示している。 (いや……まだ決まったわけじゃない。偶然辻斬りがシュリンさんと似た髪質という線もある) 僕はこの髪のことを自分の胸の中にだけしまい、シュリンさんの元に行く。「あっ、ロンドさん! 何か分かりましたか?」 彼女は唯一の希望に縋るように僕の方を見て目に光を灯す。その様子からどう考えても嘘をついているようには思えない。「少し隅で話しませんか?」 僕は声を控えながら彼女を部屋の隅へと誘導する。ここなら入り口近くに居る警備の人に聞こえないはずだ。(こっちに聞き耳を立ててる様子はないな……よし)「一つシュリンさんに確認したいことが……」「は、はい。何でしょうか?」 シュリンさんも空気を読んで声を抑える。「被害者はどうやら部屋で襲われ、そこから逃げて庭で殺されたようです」「なるほど……何か目ぼしい証拠などはありましたか?」「それは……シュリンさん。正直に答えてください。貴方は深夜……被害者の部屋に入りましたよね?」「えっ……? いや入ってません……というよりその部屋がどこかすらも分からないです」 じっと彼女の顔を見つめる。以前彼女と話した際に教えてもらった読心術を試しみる。瞳孔の動きや発汗。声の上擦り方など教えられた通り観察してみるが、やはり彼女は嘘をついていない。 もちろん精度はシュリンさんと比べて低く、参考にならないと言われてしまってはそれまでだが、僕の中で彼女が本当のことを言っているという信憑性が高まる。「実はその被害者の部屋に……シュリンさんの髪があったんです」 僕はポケット

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